“深い鍼”で患部にしっかり届く鍼治療

浅野先生から一言

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私の師である浅野周先生から北京堂鍼灸についてコメントをいただきました。

安全な鍼治療

刺鍼事故を起こさないこと。鍼治療は、治癒させることが目的ですが、過去の歴史においては盛衰の激しい治療法でした。中国では、だいたい3百年周期で盛んになったり衰えたりします。

なぜ盛衰が激しかったか?

それは鍼治療の効果が優れているため盛んになるのですが、鍼治療が盛んになれば解剖を知らない素人が鍼治療するようになり、その結果として事故が増えて、死人まで出る始末。そのため人々が鍼治療を恐れ、下火になって行きました。その点で灸は、人気を保ちつつづけたようです。

日本では江戸時代以降は、鍼が下火になることはなかったのです。しかし民間療法ではありませんでした。というのは鉄が貴重だったからです。

鉄の本体字は鐵ですが、王の文字が入っています。これは鐵を制する者が王になれるということから、王の文字が入っているのです。ですから鉄は貴重品でした。そこで日本では、家を建てるにも釘を使わない、病気の治療にもモグサを作って焼くという、鉄を使わない生活をしました。鉄といえば鍋や釜ぐらいしかなく、非常に貴重な物だったのです。だから火事になると、昔の庶民は焼け跡に釘を拾うため出掛けたものです。

中国では、鉄を焼いて折り曲げ、日本刀を作るようにして鍼を作りました。そうして最後には研いで細くしました。

日本の江戸時代には、中国より遥かに細い鍼を使うようになりました。その理由は、鍼管が発明されたからです。

鍼は手で打ち込みますが、そのとき鍼が細ければ曲がってしまいます。だから中国では鍼を太くするしかありませんでした。

日本では鍼管を発明しました。すると鍼管の内壁に支えられて、鍼が曲がらないのです。こうして細い鍼でも打ち込めるようになりました。細い鍼ならば、人体の硬い部分に当たると判ります。太い鍼は痛いので、勢いで入れるため、硬い物に当たっても判りません。ところが損傷してはいけない重要な臓器は、たいがい硬い膜に守られているのです。細い鍼ならば、ゆっくり入れるので硬い膜に当たったことが手応えで分かります。それで日本は事故が少なく、鍼が衰退することがなくなったのだと思います。

中国で鍼が盛んになったのは、現代中国になってからです。清国から民国までは、衰退の一途を辿って行きました。そして中華人民共和国になり、鍼が盛んになると、文化大革命の影響で、刺鍼事故が非常に増えていったのです。それは、毛沢東が焚書をしたからです。

焚書をしたのは、秦の始皇帝、そしてドイツのヒットラー、毛沢東です。

彼らが焚書をした理由は、非常に権力を持っていたからです。自分が万能、自分が法律だったのです。誰も反対できません。反対すれば殺されてしまいます。

そこで「王様は、そうおっしゃいますが、この本には間違いだと書いてあります」と、注意するわけです。

独裁者は、意見した人を殺そうとしますが、それは人ではなく書物なのです。そこで「私の言うことと違うことが書かれた本は、デタラメ本である。そんな本は燃やしてしまえ」ということで、焚書が始まるのです。いわば言論統制ですね。

「書物に記載してあることがデタラメと証明した者には、褒美を出す」となったのです。そこで、「半寸ほど刺入する」とあった書籍が、誤っていることを証明するために、半寸を超えて深く刺入したから事故が多発し、人が大勢死んだのでした。刺入が深すぎて、内臓を刺して事故に繋がりました。

日本では、事故の記録が公になっていません。事故が起きたことを誰でも隠したいからです。

中国では、事故を起こした人間は責任をとることが求められ、詳細に記録されました。そこで1980年頃から次々と刺鍼事故に関する書籍が発表され、鍼灸師は断層写真を見て、どの方向へ刺入したら内臓に刺さらないか研究するようになりました。だから中国では、1980年代に人体輪切り写真や刺鍼事故に関する書籍が登場し始めました。

北京堂式を創成した私(淺野周)は、まず刺鍼事故をなくさなければ、どんなに効果があっても鍼が民間に受け入れられないのではなかろうかと考え、そうした書籍を翻訳して、1990年代に『TAO』という鍼灸雑誌で発表しました。

当時は、「鍼は、まず医療事故を起こさないことが大切だ」という考えが一般的ではありませんでした。だから、どの方向へ刺すと危険なのか、などの教育はありませんでした。そこで淺野氏は、自分の所有する十冊ほどの刺鍼事故本から一冊を選び、翻訳して製本し、最初の弟子に与えたのでした。それが2006年に三和書籍から出版された『刺鍼事故(処置と予防)』3400円です。さらに断層写真集も翻訳して出版しようと考えましたが、中国側が「売価を7000円以上にせよ」と言ってきたため、翻訳文をホームページ上に公開し、3000円ほどの原書を読めるようにしました。それをホームページにアップした半年後、中国は同じ断層写真集の日本語版を出版しました。こうして日本語版の事故例と解剖書が揃ったわけです。

こうして弟子に刺鍼事故の恐ろしさを教え、何故事故が起きたのかを解剖書によって解説し、どうやったら安全で効果のある鍼を刺せるかという方法を教えました。

それが北京堂式です。

まず古典鍼灸では、鍼穴と灸穴、そしてマッサージ穴が分かれていました。現在の学校では、すべて経穴として習います。

そして解剖に基づいて、内臓に当たらないで筋肉だけに刺入できる鍼の方向を考案しました。

最も刺鍼事故が起きやすいのは胸部です。その理由は、肺と心臓は重要な臓器でありながら、動かなければならないため硬い膜で保護されていません。心臓は範囲が小さいので狙わないと刺せませんが、肺はテニスコート一面の内部面積があるため、身体で占めている位置も大きいのです。だから肺は意識して避けないと刺さってしまいます。刺さったら胸や背中が痛くなりますが、レントゲンを撮れば肺が萎んでいるのが見えます。

だから北京堂式では、まず肺を刺さないために、例えば背中でも肋間部分は刺さないとか、肩井は上腕骨頭へ向けて刺すか、筋肉を摘んで前に刺す、背中は背骨上を刺すとか決まっています。背骨に当たれば肺に入らないからです。

こうして北京堂式は、刺鍼事故を起こさないことが中心になります。それは弟子が事故を起こしてしまったとき、教えた師匠に責任があるからです。その責任回避のために、まず事故の起きない刺鍼方法を教わります。

最新技術を使った鍼治療

木下晴都は、神経が刺激されて筋肉を収縮させることが、痛みの悪循環を生み出す原因だという理論を主張し、2寸半(75㎜)の鍼を6㎝刺入する「傍神経刺」を開発しました。つまり「痛む→筋肉が縮まる→発痛物質ができる→神経を刺激→筋肉が縮む」という、痛みの悪循環理論です。これは鍼灸古典の「気血が流れなければ痛む。流れれば痛まない」という文句と近い考えです。

木下氏は、その悪循環を断ち切るために、神経を刺激すれば良いと考えました。そこで坐骨神経痛に対して神経根の傍らに刺鍼するのですが、それはブロック注射と非常に似た考えでした。それを「傍神経刺」と呼びました。それは坐骨神経痛の治療に、70%以上が治癒するという効果を挙げました。

北京堂は鍼灸古典の「気血が流れなければ痛む。流れれば痛まない」という言葉を、「酸素や血液が流れてくれば痛まない」と解釈し、血管を圧迫している筋肉へ刺鍼して筋肉を緩めれば、筋肉に締め付けられていた血管に酸素と血液が流れ込み、筋肉による神経の締め付けもなくなって、痛まなくなるのではないかと考えました。そこで2寸半でなく、3寸の鍼を使って、神経根より奥にある大腰筋へ刺入しました。すると、さらに坐骨神経痛に対する治癒率が高まって、90%近くになりました。これは神経にアプローチしているのではなく、筋肉にアプローチしているので、「傍神経刺」とは別物です。そこで「大腰筋刺鍼」と命名しました。

なぜ神経に刺さないのに、筋肉へ留鍼しただけで治癒率が上がったのでしょうか?

筋肉へ留鍼すると血流が増えることは、刺鍼前に水槽の水に腕を入れて印を付け、刺鍼したあとに水へ腕を入れると、刺鍼前より水位が上がることから、刺鍼前に比較して腕の体積が増していることが証明されました。

なぜ腕の体積が増えたのかというと、腕に流れる血流量が増えたからです。このときの腕をサーモグラフで視ると、温度が上昇していますが、それも腕に流れる血流が増えたため、体温が伝わって温度が上昇したと考えられます。

では、なぜ血流量が増えたのでしょうか? それは血管を締め付けている筋肉が緩んだため、血管の抵抗がなくなって、血液がスムーズに流れるようになったからだと考えられています。つまり筋肉が緩めば、その周囲の血流が快復し、栄養と酸素が供給されるようになるため組織が回復し、神経の締め付けもなくなって痛みが消えるのです。これは古典の「気血が通じなければ痛み、通じれば痛まない」と同じ理論です。古代の治療理論を現在でもそのまま使っているのは、鍼灸ぐらいなものでしょう。辶は行くことを表し、疒は病を示しています。通も痛も、甬という文字が使われていますが、それは管という意味です。身体の管とは血管なので、その管が通じたり、塞がれたりして発病することが、この言葉にも現れています。

さらに朱漢章は、過剰な運動などによって筋膜が傷つくと、剥き出しになった筋肉が付近の組織と癒着して、本来の運動範囲が制限されてしまうため、その限界で神経が引っ張られて痛むという理論を展開しました。そこで癒着を剥がすために小鍼刀という鍼を発明しました。この鍼は、痛みや可動域制限に絶大な効果を発揮したため、朱漢章のに理論が正しかったと認められました。これは癒着や骨増殖が痛みを起こすとした理論ですが、朱漢章は1993年頃に『小鍼刀療法』という本の中で発表し、現在の中医学科では一門を成して、正式な教科になっています。そうした最新理論も取り入れています。

高維濱は、球麻痺の治療に、項鍼療法を使い始めました。それは1988年頃の『鍼灸絶招』という厚さ1㎜ほどの書物に記載されていました。球麻痺は危険部位で手術も出来ず、頭鍼も効果がなかったので、球麻痺が治癒するということは画期的なことでした。北京堂でも球麻痺患者に試し、嚥下障害が治癒しました。その後に彼は認められ、1995年頃に『鍼灸三絶』という書を出し、夾脊鍼と項鍼を使った治療を推奨しました。項鍼は球麻痺、夾脊鍼は自律神経失調症などを治療します。

様々な人によって改良が加えられた頭鍼療法も、現在は対刺、斉刺、揚刺、井字形刺、接力刺など、刺鍼方法も新しくなって、脳卒中による半身不随の治療に、さらに効果を発揮できるようになっています。

このように北京堂では、筋肉を緩めて神経の絞扼痛を消すことを中心に、朱漢章理論に基づいて癒着を解消したり、夾脊鍼によって内臓疾患や自律神経失調症を治療し、項鍼によって嚥下障害を治療したり、脳障害を治療する頭鍼を併用するだけでなく、平頭火鍼によってホクロやソバカスを消すなど、最新の中国の治療法を実践しています。

北京堂の特徴:大腰筋刺鍼などインナーマッスルへの治療

日本の鍼方式、特に関東では、数㎜ほどしか刺しません。ですが鍼灸の聖書と呼ばれる『霊枢・官鍼』には、九刺や十二刺、五刺などが記載され、分刺、輸刺、短刺があって、短刺などは「骨まで刺して骨を擦る」としています。

本来のプロは、この『霊枢・官鍼』に記載されている全ての刺鍼法が使えなければなりません。

北京堂では梅花鍼や円皮鍼、皮内鍼など皮膚へ刺す鍼はもちろんのこと、3寸半(10.5㎝)の長鍼を使って、深層筋への刺鍼までおこないます。

そのため従来の表皮刺鍼による治療効果とは、まったく違った効果が現れます。例えば『霊枢・官鍼』に、浅刺の浮刺は「肌が引きつって冷えるものを治療する」とあり、深刺の短刺は「骨の痛みを除く」とあります。これによると浅刺は皮膚の強ばりや冷えに効果があり、深刺は骨の痛みに効果があるということになります。

北京堂では「浅刺と深刺は作用が違い、浅刺の効果は瘢痕灸に似てる」と解釈しています。

実際の治療では、腱鞘炎の痛みを例にしますと、肘から手首までの筋肉には骨に当たるまで深刺し、痛む部分の手首や指関節には皮内鍼を貼り付けます。

大腰筋刺鍼などでは、坐骨神経痛で松葉杖をついてきていた人が、大腰筋刺鍼を一回受けただけで松葉杖が要らなくなります。こうした坐骨神経痛やギックリ腰の痛みには、深刺が効果的です。浅刺を百回しても効果がありません。

北京堂の3~3寸半の毫鍼を使った深層筋刺鍼には、大腰筋刺鍼のほかにも、腰方形筋刺鍼、腸骨筋刺鍼、中小臀筋刺鍼、梨状筋刺鍼、ヒラメ筋刺鍼、肩甲下筋刺鍼、烏口腕筋刺鍼、棘上筋刺鍼などがあります。肩峰の下から肩峰下滑液包へ刺入するなど、書物にない特殊な刺入法をしたりもします。

ただ深く刺せば良いかというと、そうではありません。鍼灸古典には「病巣部に鍼の気が達して効果がある」と書かれています。そして「気が至るのが速ければ速く治り、気が遅く至れば治らない」ともあります。『難経』には「気が至らなければ不治である」と、書かれています。

つまり昔から鍼治療では「気が病巣部まで達する」ことが重要であり、気が達することによって「手到病除」という効果が発生するのです。手到病除とは、手で病巣部を取り去ることです。

ここでの気とは、邪気と考えられているものです。『鍼灸大成』には「鍼を入れると、邪気が集まってきて鍼が引き込まれる」と書かれています。

鍼によって効果を得るには、この「邪気を鍼で引き寄せて、鍼と一緒に鍼孔から抜き取る」ことが、昔から重要だとされてきました。それがなければ邪気が体内に残ったままで、効果がない。

こうした邪気には、治療者が感じるものと、患者側が感じるものの2種類があります。昔は、患者側の感覚は重要視されてきませんでした。

では治療者側には、どのような感覚があるのでしょうか?

『標幽賦』には「刺鍼して静かに待つ。突然、魚が釣り針を呑み込んだかのように、グググッと引き込まれる中りがある。それが邪気なので、逃がさないようにする。得気がなければ、誰もいない建物の中を進んで行くように手応えがない」と解説してあります。

つまり邪気が来れば、魚がかかったときのような手応えが鍼に感じられる。邪気が来なければ、豆腐にでも刺しているようで、まったく中りがないということです。ここまでが治療者側の刺鍼感覚。

何のために治療者側が気を得るかですが、それは患者側に「気が病巣部へ達する」感覚を起こさせるためです。刺鍼して、治療者側に、鍼が引き込まれる感覚が起きなければ、患者には何の感覚も発生しないからです。

治療者に鍼が重くなった感覚が発生したとき、患者側は何を感じているのでしょうか?

鍼を刺されている部分が重く、怠くなって、強く締め付けられている感じがします。

こうした感覚が患者側に発生したら、治療者は操作によって鍼の感覚を遠くまで伝導させたり、温度を下げたり上げたりできます。

鍼には、こうした治療者側の「鍼が重く渋る」という得気、そして患者側の「鍼の感覚が病巣部へ到達した」という鍼感、この2つの感覚が必要なのです。特に患者にとっては、「刺鍼された感覚が病巣部へ到達した」という鍼感は、患者にとって満足できる治療効果をもたらすために重要です。

これは「日常の痛みが出ている状態が再現されている」という感覚となって、実際には現れます。

こうした「痛む部分に鍼の感覚が達している」という現象は、発生させるのに少々のに技術が必要です。だったら最初から、その病巣部へ刺鍼すれば、「痛む部分に、鍼の感覚が届きやすい」ということです。そこで中っても問題のない部分ならば、できるだけ中ててゆくため、病んだ筋肉へ刺鍼するから深く入れるのです。

北京堂は伝統医学:師匠から技術を受け継ぐ徒弟制度

現在、学校を卒業してから鍼灸の治療法を勉強する方法としては主に三つあります。その一つは、中国留学して勉強する。これは中国の鍼灸老師の弟子となって勉強する方法です。良い方法ですが、コネと語学力が必要です。次には自分で鍼灸古典などを読んで、鍼灸治療を学ぶ。これは古典を読み切る能力が必要です。最後に残った手段は、日本語の出来る鍼灸師の弟子になることです。これが一番安易。しかし中国語が出来て、鍼灸古典も読むことができ、実際の治療効果の優れた師匠を捜すことは困難です。日本では父子相伝というのが多いですが、この条件に当てはまる父親に会うことは困難です。

そこで鍼灸古典である『霊枢』、そして鍼灸の聖書である『鍼灸大成』、『鍼灸甲乙経』などを読みこなす力を持ち、現代の世界鍼灸に通じている人間に着いて学ぶことが必須になります。たとえ師匠が70%の能力しか持たなくとも、弟子が70%の能力を持っていれば、合わせて140%、つまり一人の天才の100%分の能力を上回る結果となります。古代に天才が現れていたとしても、現代のようにテレビやロケットが作れたでしょうか? やはり何代もの70%が積み重なった結果なのです。そこで北京堂は、内弟子制度を作って、師匠の能力を弟子に教えることにしました。それによって鍼灸徒弟制度による中国を追い越そうとしたのです。だから北斗真拳のように、ある程度の技術を伝えられ、それにプラスαするもので、常に0からのスタートではありません。

これによって、どのようなスタートラインに立てるかということですが、少なくとも治療効果が得られるという「病のところに気が達する」ことはできるようになります。つまり『霊枢』『素問』『難経』といった医学古典、そして『鍼灸大成』『鍼灸甲乙経』『鍼灸聚英』などの鍼灸名著、さらに『鍼灸逢源』『鍼灸銅人』『鍼灸大全』『鍼灸集成』などの鍼灸著作、そして現代の中国鍼灸書籍をマスターしたところがスタートラインになるわけです。それから技術を積み上げることができます。

これが誰にも頼らないで1からスタートしていれば、恐らく一生かかっても、『霊枢』『素問』『難経』の医学古典、『鍼灸大成』『鍼灸甲乙経』『鍼灸聚英』の鍼灸名著、『鍼灸逢源』『鍼灸銅人』『鍼灸大全』『鍼灸集成』などの鍼灸著作をマスターしただけで終わりでしょう。

巷では、多くても一週間に一度の勉強会はありますが、勉強会では実際の患者を治療することはなく、また研修生が治療して、その治療で間違っていないのか先生に確認して貰うことすらできません。なによりも勉強会の治療方法見学は、現実の患者ではなく健康人であるため、実際どれほどの効果があるのか分かりません。それに一週間に一度では、365÷7で、52回の見学しかできません。月にすれば一カ月ちょっとの研修です。「一カ月ちょっとで、本当に治療方法が学べるのか? 少なくとも半年から一年はかかるのではないだろうか?」ということで、治療所にて師匠と毎日一緒に患者さんの治療方法を見学し、また実際に自分でも治療してみて、欠点などを訂正して貰います。車の運転でも、先生に横でついていて貰い、実際の運転を看て貰う必要があり、それから一人で運転ができるようになるのです。ましてや鍼治療なら、人の治療を看ているだけでは、自分の治療技術が身に付くはずがありません。

北京堂の内弟子は、2008年10月現在、神戸(二天堂)・東京(北京堂・中野治療所)・川崎(北京堂・新百合ヶ丘治療所)の3か所にいます。そこでは、ほぼ同一料金で、ほぼ同一な治療が受けられます。

北京堂の料金:床屋の二割り増し

昔から鍼灸の料金は、理髪店の二割増しと相場が決まっていました。そこで北京堂は、一般的な理髪店の二割り増しで、どのような鍼治療が出来るかという標準的鍼灸治療法を確立しました。これより高ければ、それだけ早く治癒するでしょうし、安ければ治癒までの期間が長いということになります。

ただ、現在の状況では、地価の高いところと安いところがあり、例えば坪30万の土地では4000円の営業が出来ません。だから主都心は別として、従来の標準的な料金を守ります。

これは「鍼灸治療は、床屋の2割り増し」という従来の料金体系を守れば、どれだけの鍼治療ができるか? という挑戦でもあります。

こうして中国の書籍に記載された標準的な治療法を使い、標準的な効果と価格を示そうというわけです。

もちろん世の中には、技術があるため桁外れの料金を取っている鍼灸院もあります。ところが、その価格が適当かどうか患者には判断のしようがありません。

それが「北京堂に来たら六回で治癒した。しかし某治療院では三回で治癒した」ということになれば、そこの治療院は北京堂の二倍以上の料金価値があるということです。しかし十二回で治癒したのなら、半分以下の料金価値しかありません。それは費やしている時間、そして僅かの交通費などが無駄になるからです。特に「何回も行ったけど、治らなかった」では、まったくの時間の無駄、費用の無駄になってしまいます。

一応、北京堂では治療回数の目安をお知らせしたり、疾患によっては私どもの治療所で治らないので、別の方法をお知らせすることになっています。

こうして一般的な料金で得られる、一般的な鍼の効果を、一般の人々に分かって貰うことが、日本の鍼灸技術を高めるために必要なことと思います。

こうした比較する基準があれば、「そこより短期間で治してやろう」とか、「そこで治らない病気を治してやろう」という、やる気のある人が現れ、その料金が適切かどうか判断できるようになります。今のように基準がなく、みんながバラバラですと、比較のしようがありません。

治療も病気ごとに、だいたいの定価があって、完治するのにトータルで幾ら払ったかが重要になります。それは時間を含めてです。

だいたい打ちきりを考える最長ラインは、10回です。たとえ1000円の治療費であっても、10回なら10000円。北京堂の治療ならば、12000円で3回分の治療、時間として120分です。1000円の治療ならば、たぶん一回が20分で、10回で200分が同等です。好転しないのに通うのは、時間の無駄です。

北京堂の通院回数:一般的な疾患なら見積もりします

北京堂の内弟子は、師匠から実技指導を受けます。そして鍼を入れた感触から、この程度の疾患なら何回ぐらいで完治するか、見積もりの出し方も教わります。

それは「私の病気は、何回ぐらいで治るのでしょうか?」と聞いてくる患者さんが多いからです。

その病気を治療したことがなければ、「何回ぐらいで治ります」という見積もりが出せませんが、鍼の場合は入れた感触で、「あなたは何回ぐらいで治ります」と、おおよその見当を付けることが出来ます。もっとも稀には、非常にレアな疾患のため見積もりが出せなかったり、難病のため見積もりが出せないということもありますが、腰痛とか坐骨神経痛、顎関節症、五十肩のような一般的症状なら「何回ぐらいで治ります」と、だいたい見積もりが出せます。

これは当該疾患を治療したときの平均値のようなものです。その見積もりの出し方も教わります。

だいたい治る頃になると、「あと2~3回ぐらいで治ります」と言います。経験を積めば、大概は何回ぐらい自分が治療すれば、その疾患が完治するのか、だいたい分かってきます。それによって患者側は、予算とか今後の予定とかが立つようになります。

内弟子もその治療経験を受け継いでいるので、病気の程度によって何回ぐらいで完治するのか、だいたい答えられます。

鍼治療は、3回ぐらいで効果の現れることが多いので、3回治療してみて一週間休みます。それで改善が見られなければ適応症でないことが多いです。

鍼治療も「3度目の正直」という言葉があって、三度やって効果がなければ信用する人はいません。

なかには耳鳴り治療のように、治療している間に改善されなくとも、治療を止めて2~3週間過ぎてから効果が現れてくる疾患もあります。

三回治療しても、やはり最初に来たときのままで、六回治療しても最初に来たときのまま、十回来ても最初に来たときのまま、三年通ったが最初のまま。結局は「これ以上、悪くならないから効果があるのだ」と、自分で自分を説得してしまう。なかには「治らないのは治療が悪いのではなく、こんな病気になった自分が悪い」などと、自己批判をしてしまう人もいます。

実は、それは間違いなのです。医者でも脳外科と心臓外科があるように、鍼灸にも得意とする疾患があるのです。その得意とする疾患は、各鍼灸流派によって異なります。

例えば、北京堂は脳障害のなかでも、脳溢血による半身不随や、球麻痺による嚥下障害などの治療を得意としています。しかし脳性麻痺や脳塞栓の治療には、一般的な効果しかありません。しかし中国には脳性麻痺を得意としている治療者もあれば、脳塞栓を得意としている治療者もいます。そうした人は脳溢血や球麻痺には、一般的な治療効果しかありません。

このように各治療者は、得意としている疾患が異なります。

それは医者でも同じです。同じ癌でも、ある医者が手術すると90%治癒するのに、違う医者が手術すると50%が五年以内に死んでしまうとか。

だから北京堂で治らなかったからといって、他の治療者でもダメというわけではないし、また他の治療院で治らなかったからと言って、北京堂でも治らないとは限らないのです。

例えば、ある女性、37歳。北海道で助手席に座り、横からぶつけられてムチウチに。

会社近くの鍼灸整骨院に通い、最初は効果があった。「毎日来い」と言われて、毎日通い、本人は(こりゃあ、自分が会社を首になるか、この首が治るか、どっちかだ)と思った。

最初は効果があった鍼治療も、途中から全く効果が無くなって、何度治療しても同じ状態。一年近く、そんな状態が続いて

(こりゃあ、いよいよ首になるわ。その前に自宅近くの治療院へ替えよう)

そこで北京堂へ来た。そこは三日に一度の治療。

1回目の治療、首への鍼治療。結果は、前の毎日通った治療院と同じ。変化なし。

2回目の治療。同じく首への鍼治療だが、今度は鍼が太い。結果は、前の毎日通った治療院と同じ。変化なし。

3回目の治療。「まったく変化がない」というと、「原因が別にあるのかも知れない」ということで、腕を調べる。首から腕に神経が出ており、それが首へ逆流しているかも知れない。どうも三角筋がコチコチだった。そこで三角筋への鍼治療。結果は、好転。そこで回数券を9万円分買う。そういえば横からぶつけられたとき、左肩を助手席のドアで、嫌というほど打ち付けた。三角筋が原因と分かってから訴えても、すでに証文の出し遅れ。

10回目の治療。完治。ただ、完治はしたが、後の20回分の回数券を使ってくれないので困っている。本人に、偶然出くわしたところ、「また肩凝りすることもあるだろうから、そのとき使う」とのこと。しかし毎日スポーツジムに通う彼女は、肩凝りで回数券を使ってくれそうにない。

このように、他の治療院で治らなかった疾患も、北京堂では完治したりします。おそらく北京堂で完治しなかった患者さんも、他の治療院で完治しているケースが多々あるでしょう。だから3回治療しても効果が無く、それでも同じ治療法をするのだったら、違う治療所へ行って別の治療を受けた方が、完治する可能性があります。なぜなら6回治療されて、まったく好転しないようならば、そこの治療所では、まず完治が望めないからです。

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